建設工事の請負金額|下請業者に対する「不当に低い請負代金の禁止」とは

多くの下請業者の方は、元請業者から仕事を受注する際の請負金額や工事原価、受注した工事から利益を確保することができるかについて常日頃から気にかけているはずです。

下請業者の方にとって自社に工事を長年継続的に注文・取引してくれる元請業者は大事なお客様といえます。

そのため元請業者はどうしても取引上優位な立場となりやすいことが現実問題としてあります。

取引上優位な立場になりやすいことや元請業者が他社との競争の結果、低い金額で受注をすることになったなど様々な事情により、元請業者から無理や要求やお願いをされ、下請業者は低価格受注を強いられることが問題となってきます。

低価格受注を強いられることで下請業者の経営面を圧迫させることの他、下請業者の工事の施工方法、工程等について技術的に無理な手段や期間等の採用を強いることにつながることで手抜き工事や不良工事等の原因となることも考えられます。

建設業法では、建設工事の請負契約の当事者は対等な立場での合意に基づいて契約を締結することが求められています。

建設業法の通りに考えれば、下請代金に納得できなければ受注しなくてもよいのですが、実情はなかなかそうはいかないものです。

いつも継続的に専門工事を注文してくれる元請業者さんには、なかなか物申しにくいし強く出られないということがあると思われます。

そのため下請業者の方は、採算が取れないと分かっていても受注を断ることができない状況にあったり、「もしも受注を断りでもしたら、今後仕事が来なくなるのでは・・・」と頭をよぎることもあるのではないでしょうか。

また、これまで取引のなかった元請の下請として仕事を行うことになり、今回の現場は採算をとれない可能性があるが、受注機会の拡大と今後の継続的な取引関係の構築を考えて受注をしているということもあるかもしれません。

建設業法では下請業者を含む請負人が、低価格受注を強制されることを禁止し、請負人を保護する「不当に低い請負代金の禁止」が定められています。

この記事では「不当に低い請負代金の禁止」を定めた条文や違反事例、違反にあたるかどうかの判断についてご紹介していきます。

 

「不当に低い請負代金の禁止」は下請業者を含んだ請負人を保護する規定

不当に低い請負代金の禁止とは、注文者が自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を請負人と締結することを禁止することです。

建設業法では次のように定められています。

建設業法第19条の3

注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。

条文中の「注文者」とは、発注者(建設工事の最初の注文者 ※施主のことです。)だけではなく、下請契約の際に注文者となる元請業者も含まれます。

この場合元請業者が注文者となり、下請業者が請負人となります。

条文中の「請負人」には下請業者も含まれ、取引上弱い立場になりやすい下請業者を保護しようという趣旨もあります。

簡単に申し上げますと、下請契約の締結にあたり、あまりにも低い金額で契約をすることは建設業法で禁止するということです。

 

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「不当に低い請負代金の禁止」違反に該当するかどうかの判断

「不当に低い請負代金の禁止」違反にあたるかどうかは、請負契約を締結するにあたり、「注文者が自己の取引上の地位を不当に利用したかどうか」、「請負代金の額が注文した建設工事を施工するのに通常必要と認められる原価に満たないかどうか」の2点から判断されます。

 

自己の取引上の地位を不当に利用するとは

元請業者・下請業者間の取引依存度が高い場合等、下請業者にとっても元請業者との取引の継続が困難になることが下請業者の事業経営上おおきな支障をきたす場合には、元請業者が下請業者に対し著しく不利益な要請を行っても、下請業者がこれを受け入れざるを得ないような場合があり得ます。

自己の取引上の地位の不当利用とは、このような取引関係が存在している場合に、工事をたくさん継続的に注文することで取引上優位な立場にある元請業者が、下請業者の指名権、選択権等を背景にして、元請業者の希望する価格による取引に応じない場合は、今後の取引について不利益を及ぼすことがあり得ることを示すなど、下請業者との十分な協議を行わず、当該下請工事の施工に関して通常必要と認められる原価を下回る額での取引を下請業者に強要することです。

 

通常必要と認められる原価とは

工事の施工場所の地域性、工事の具体的な内容等を総合的に勘案して通常当該建設工事に必要と認められる価格のことです。

具体的には次の①~④の経費を合計して求める方法で算定されます。

①標準的な歩掛り、単価、材料費及び直接経費を基礎とした直接工事費

②共通仮設費(現場事務所の営繕費や安全対策費などの工事全体にまたがって使う経費)

③現場管理費(現場社員の給与など、工事を監理するために必要な経費)

④一般管理費

 

「通常必要と認められる原価に満たないかどうか」を判断するにあたっては、施工地域で同じような建設工事の請負代金額の実例等を調査することや元請業者が過去に他の下請業者と同様の建設工事の下請契約を締結したことがある場合は、その請負代金の額を調査する必要があります。

 

「不当に低い請負代金の禁止」は契約内容を変更する際も適用されます。

不当に低い請負代金の禁止は、当初契約の締結にあたり、不当に低い請負代金を強制することを禁止しただけではなく、その後契約内容を変更する際にも適用されます。

当初契約締結後、元請業者が原価の上昇を伴うような工事内容の変更をしたのに、それに見合った下請代金の増加をしないことや一方的に下請代金を減額することにより原価を下回ることも禁止されています。

 

建設業法に違反する可能性のある事例

国土交通省から出されている建設業法令遵守ガイドラインでは、「不当に低い請負代金の禁止」に違反する可能性のある事例が紹介されています。

◯元請負人が、自らの予算額のみを基準として、下請負人との協議を行うことなく、下請負人による見積額を大幅に下回る額で下請契約を締結した場合

◯元請負人が、契約を締結しない場合には今後の取引において不利な取扱いをする可能性がある旨を示唆して、下請負人との従来の取引価格を大幅に下回る額で、下請契約を締結した場合

◯元請負人が、下請代金の増額に応じることなく、下請負人に対し追加工事を施工させた場合

◯元請負人が、契約後に、取り決めた代金を一方的に減額した場合

◯元請負人が、下請負人と合意することなく、端数処理と称して、一方的に減額して下請契約を締結した場合

出典:国土交通省 建設業法令遵守ガイドライン

 

下請代金の額を決定するにあたり、元請業者・下請業者間で十分な協議をすることが重要

下請代金額の決定にあたっては、元請業者・下請業者間で責任施工範囲や工事の難易度、施工条件等を反映した妥当なものとすることが求められます。

下請代金の額の交渉に関し、元請業者の査定額と下請業者の見積額との間に乖離がある場合は、元請業者が積算根拠を明らかにしたり、積算における工期等の設定が不適切なものとなっていないかについて下請業者の意見を参考にして検証を行うなど、下請業者と十分な協議を行うことが重要となります。

下請業者と十分な協議を行うことなく元請業者が価格を一方的に決定し、その価格で取引を強要する指値発注は「不当に低い請負代金の禁止」違反となる可能性があります。

元請業者と下請業者のそれぞれが対等な協力者として尊重し合える関係でありたいものです。