建設工事の下請契約|見積依頼と見積条件提示は契約締結の第1ステップ

下請工事の見積依頼時には、下請工事の内容となるべき一定の重要な事項をできる限り具体的に提示しなければならないこととされています。

見積りを依頼することは、頻繁に起こることではないものの日常生活の中で意外と発生するものです。

何年に一度しか利用する機会のない、高額な商品やサービスを購入・利用する際は、事前に見積りを依頼することが多いのではないでしょうか。

例として自動車を購入する場合を挙げてみます。

自動車を購入する際は、実際に契約をする前に希望するグレードやカラー、付属品はどうするのかといった希望を伝え「ではこの条件で一度見積書を作ってもらえませんか?」と自動車販売店の担当の方に伝えることが多いかと思います。

その後再度見積内容について検討を行い、最終的に購入するという流れとなることが多いはずです。

話を戻しますと建設業の場合、建設工事の下請契約を行うにあたって見積りを依頼する際は、下請業者へ見積条件として提示する事項が決められています。

今回は下請契約を行うにあたり、見積条件として提示する事項についてご紹介していきます。

 

見積条件として提示する事項は建設業法で定められています。

建設業法では下請契約を締結する前に下請業者へ見積依頼をする際は、下請業者が適正に見積もることができるよう、下請契約の内容となる一定の重要な事項について具体的に提示することが定められています。

また下請業者への提示後、下請業者が適正な見積りをするために必要な見積期間を設けなければいけません。

参照:「急いでいるから早めにお願い!」は問題?建設工事下請契約の見積期間の設定

これは下請契約が適正に行われるよう適正な見積期間を設けて、下請業者に請負金額の算定にあたり請負予定の工事について適正に見積もりを行わせること、下請業者に見積落し等の問題が生じないよう検討する機会を与えて、請負代金額の計算その他請負契約の締結を行うかどうかの判断をさせるために行われるものです。

そのため適正な下請契約が行われるよう下請業者を保護しようという趣旨も含まれています。

冒頭でご紹介した提示を義務付けられている一定の重要な事項とは、建設工事請負契約書に記載しなければならない14項目のうち「請負代金額」を除くすべての事項となっています。

参照:建設工事の請負契約|契約書なしで工事に着手すること、本当は問題です。

 

見積条件として提示が義務付けられている事項

建設業法では見積条件として提示しなければならない事項について、次の13項目が定められています。

ざっくり目を通してください。

① 工事内容
② 工事着手の時期及び工事完成の時期
③ 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
④ 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
⑤ 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
⑥ 価格等(物価統制令(昭和21年勅令第118号)第2条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
⑦ 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
⑧ 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
⑨ 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
⑩ 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
⑪ 工事の目的物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
⑫ 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
⑬ 契約に関する紛争の解決方法

 

上記①の工事内容については、元請業者が最低限明示の必要がある項目があります。

上記①の工事内容については、元請業者が工事内容の詳細として最低限明示する必要のある8項目があります。

こちらもざっくり目を通してみてください。

① 工事名称
② 施工場所
③ 設計図書(数量等を含む)
④ 下請工事の責任施工範囲
⑤ 下請工事の工程及び下請工事を含む工事の全体工程
⑥ 見積条件及び他工種との関係部位、特殊部分に関する事項
⑦ 施工環境、施工制約に関する事項
⑧ 材料費、労働災害防止対策、産業廃棄物処理等に係る元請下請間の費用負担区分に関する事項

 

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元請業者が不十分・不明確な情報に基づいて、見積依頼をすることは問題となります。

見積条件として提示が義務付けられている上記13項目について、元請業業者が設計図書や図面等の提供をしないなど、不十分・不明確な情報に基づいて下請業者に対し見積りを行わせることは、問題となります。(建設業法に違反する可能性があります。)

 

まだ具体的内容が確定していない事項はどうするのか

元請業者は上記でご紹介した13項目のうち具体的内容が確定していない事項がある場合については、そのことを明確に示す必要があります。

また施工条件が確定していないなどの正当な理由がないのに、元請業者が下請業者に対して、契約までの間に具体的な内容を提示しない場合には建設業法違反となります。

 

見積依頼は書面で行うことが望ましいとされています。

国土交通省から出されている建設業法令遵守ガイドラインでは、元請業者が下請業者へ見積を依頼する際は、口頭ではなく書面によって具体的内容を示すことが望ましいとされています。

これは建設業法で定められた義務ではありませんが、実際のところ多くの方が書面での見積依頼を行われていることと思われます。

口頭だけで「工事内容の細かな詳細」や「工事着手の時期及び工事完成の時期」など13ある重要な事項を下請業者へ伝えることは、後々お互いに伝えた見積条件を忘れてしまったり、内容があいまいになったりすることで適正に見積りをすることができなかったり、トラブルの原因となることも考えられます。

見積条件を口頭で伝えられた下請業者の方は、その場でノートなどに書き留めておくことはできるかもしれませんが、元請業者より伝えられた見積条件があいまい・不明確になる可能性があることはお分かり頂けると思います。

そのため見積条件を明確化するため、元請業者が見積条件を記載した書面を作成し下請業者へ渡すことで、元請業者・下請業者の双方が書面を保有しておくといった方法をとることが有効です。

また元請業者は、建設生産システム合理化推進協議会が作成した「施工条件・範囲リスト」に提示されているように、材料、機器、図面・書類、運搬、足場、養生、片付、安全などの作業内容を明確にしておくことが望ましいとされています。