建設工事の請負契約|契約書なしで工事に着手すること、本当は問題です。
建設工事の請負契約の当事者は、工事に着手する前に契約内容となる一定の重要な事項を書面に記載して、相互に交付することとされています。
この「建設工事の請負契約の当事者」には、下請契約を行う際の当事者となる元請業者と下請業者も含まれます。
契約の当事者は、建設工事の最初の注文者(施主)と元請業者に限られるものではありません。
また建設業許可を受けなくても行える軽微な建設工事(工事1件の請負代金額が建築一式工事の場合は税込1500万円未満の工事等、それ以外の工事の場合は税込500万円未満の工事)を行う場合でも適用されることに注意が必要です。
書面にするのはなぜ?
民法では請負契約は書面などの様式を必要とせず当事者の合意によって成立するとされています。
そのため口頭(口約束)だけでも効力があります。
しかしこれだと契約した内容が不明確・不正確となり、後々契約内容についてトラブルとなったりモメたりする原因となることは想像がつくと思います。
そのため建設業法では建設工事の請負契約を締結する際は、工事内容やその他契約内容となる一定の重要な事項(工事内容、時期、請負代金の額、支払等に関する事項、損害の取扱いに関する事項などの14項目)について、詳しく具体的に書面に記載し、契約当事者の契約内容や権利義務関係を明確にして相互に交付することが定められています。
建設業法では次のように定められています。
建設業法第19条第1項
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
14もの重要な項目について口頭だけでやりとりするのは、契約をした証拠が残らず、口頭でやりとりした内容が時間が経つにつれ忘れてしまったり、あいまいになってしまうなどの問題が出てくるのはお分かりいただけると思います。
また書面にして相互に交付をしていないことで、取引上弱い立場になりやすい下請業者の方が思わぬ不利益を被る可能性も考えられます。
契約書の記載事項は14項目
契約書には次の14項目を記載し、署名又は記名押印をして相互に交付します。
① 工事内容
② 請負代金の額
③ 工事着手の時期及び工事完成の時期
④ 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
⑤ 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
⑥ 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
⑦ 価格等(物価統制令(昭和21年勅令第118号)第2条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
⑧ 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
⑨ 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
⑩ 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
⑪ 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
⑫ 工事の目的物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
⑬ 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
⑭ 契約に関する紛争の解決方法
署名とは
書類等の作成の責任を明らかにするために自分の氏名を自ら書きしるすことです。
記名とは
自ら氏名を書きしるす必要はなく、他人が書いてもよいしパソコン等を使用しての印刷でもよいのが記名です。
記名は押印をすることにより署名に代えることができます。
相互に交付とは
契約の当事者が同じものをそれぞれ1部ずつ持っておくことです。
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必ずしも「契約書」という形でなくても構いません。
個々の工事ごとに工事内容に沿って契約書を作成する方式の他、元請業者・下請業者間の実際の取引形態や状況に則して、一定の要件を満たすことにより次の方式も可能です。
◯あらかじめ一定の期間に適用する基本的な契約書を作成したうえで、個別の工事発注ごとに注文書と注文請書を交わす方式
◯注文書と注文請書のそれぞれに基本契約約款を印刷又は添付する方式
また契約の相手方の承諾を得るなどの一定の要件を満たすことで、書面ではなく電磁的記録(電子メール等)による契約も認められています。
しかし単なる注文書と請書のみを交換するだけの方式は認められていません。
下請契約をする際は、建設工事標準下請契約約款を活用するか、参考にして書面にすることが推奨されています。
国土交通省に設置されている中央建設業審議会により作成された下請契約のための標準請負契約約款(建設工事標準下請契約約款)があります。
下請契約の際は建設工事標準下請契約約款を活用するか、建設工事標準下請契約約款を参考にして建設業法に違反しない内容の契約書を準備・使用することが推奨されてます。
なお市販されている建設工事請負契約書を使用する際は、上記でご紹介した建設業法に定める契約書記載事項14項目が反映され盛り込まれたものであるか確認をして使用することが必要です。
下請業者に対し一方的に義務を課したり、過大な負担を課す契約内容は問題となります。
下請契約の締結にあたり、単に上記にご紹介した契約書記載事項14項目を形式的に記載しておけばよいということではありません。
取引上優位な立場になりやすい元請業者の地位を不当に利用し、下請業者に対し一方的な義務を課す契約内容や過大な負担を課す契約内容により、下請代金の額が通常必要と認められる原価に満たない金額となる場合は、建設業法に定める「不当に低い請負代金の禁止」違反につながる可能性もあります。
契約書の取扱いに関し建設業法に違反する事例
国土交通省から出されている建設業法令遵守ガイドラインでは、下請契約を締結する際の契約書の取扱いに関し建設業法に違反する事例が紹介されています。
契約書なしで工事を行う場合の違反事例が紹介されています。
◯下請工事に関し、書面による契約を行わなかった場合
◯下請工事に関し、建設業法第19条第1項の必要記載事項を満たさない契約書面を交付した場合
◯元請負人からの指示に従い下請負人が書面による請負契約の締結前に工事に着手し、工事の施工途中又は工事終了後に契約書面を相互に交付した場合
◯下請工事に関し、基本契約書を取り交わさない、あるいは契約約款を添付せずに、注文書と請書のみ(又はいずれか一方のみ)で契約を締結した場合
出典:国土交通省 建設業法令遵守ガイドライン
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契約内容を書面にするのは建設業法の遵守にとどまりません。
書面により契約を締結することは建設業法の遵守にとどまりません。
次の点も考慮して書面により契約を締結し保管をしておくことが大切です。
新規の建設業許可申請や建設業許可の変更届をする際に、以前の契約書を証明資料として使用することがあります。
これまで建設業許可を受けずに小さな工事だけを行ってきた方が新規に建設業許可申請をする際、建設業の経営経験があるのか、専任技術者となるための実務経験が備わっているのかの証明資料として、契約書や注文書、注文請書を使用することがあります。
またすでに建設業許可を受けている方が経営業務の管理責任者や専任技術者の変更をする際、新たに経営業務の管理責任者や専任技術者となられる方について経営経験や実務経験があることの証明資料として契約書や注文書、注文請書を使用することがあります。
経営事項審査を受ける際は確認資料として使用します。
建設業許可を受けている方が経営事項審査を受ける際、工事経歴書に記載した工事の実態確認として、契約書や注文書、注文請書の確認が行われます。
そのため契約書や注文書、注文請書などがなければ完成工事高としてのカウントが認められません。
最後に
これまでの慣習により、お互いに契約書類を交わすことなく工事に入ることや元請業者や上位下請業者の担当者から口頭による指示や注文で工事に入ることが、実際のところまだまだ行われていることと思われます。
契約書面をお互いに取り交わすことにより、建設業法の遵守や元請業者・下請業者間の後々のトラブルを防ぐことにつながることはもちろんですが、契約書や注文書・注文請書を取り交わし残しておくことで、これから建設業許可を新たに受けられる方の手続きが進めやすくなったり、変更届の提出がスムーズに行えるという側面もあります。